若者と語る日本の教育
現在の教育現場や政治は若者の目にどう映っているのか。
「みずおか俊一」元参議院議員と若者の座談会の様子をお届けます。
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Kさん20代女性
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Oさん大学院生
教育の機会均等と政治の果たす役割について
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水岡さんが政治活動を始めたきっかけを教えてください。
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教員として勤め始めた1980年頃のことです。当時、担任していた中学3年生の学級には、家庭の経済状況などから、高校に進学できない子どもが数人いました。「進学したいけど…」と、悩む彼らの姿を見て、「何とかできないものか」と、やり場のない思いを抱えていました。「誰もが教育を受ける権利を保障するため、国はもっとやるべきことがあるはず」そう強く感じた当時の経験が、組合活動、政治活動へと繋がっていきました。
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現在も家庭の経済格差が、子どもの教育機会に影響を及ぼしていると思います。国はどんなとりくみをしているのでしょうか?
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実施されている施策はいくつかありますが、いずれも有効な手立てにはなっていません。例えば、大学などに進学する学生の約半数が利用する日本の一般的な奨学金制度は、本来の意味の「スカラーシップ(Scholarship)」とは異なります。「スカラーシップ」は、返還不要の「給付型」を意味しますが、日本の奨学金制度の多くは、奨学金とは名ばかりのいわば「教育ローン」です。
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僕は大学院生なので、学費についてはとても身近な問題です。就職状況も良くない中、学生のうちから将来返さなければならない奨学金を借りるのは、やはり不安です。
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奨学金の返還ができず、若くして自己破産を余儀なくされる方もいます。返還によって経済的に厳しく、結婚もできないという声も聞かれます。奨学金制度の問題は、未来を担う若者の「くらし」をいかに支えるのか、という社会問題でもあります。その解決策の一つとして、まずは給付型奨学金制度を拡充する必要があると考えています。
大災害発生時に学校が担う役割について
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95年の阪神・淡路大震災発生時、近隣住民が次々と避難してくる様子を見て、学校が担う役割は大きいと改めて感じました。「あんな大災害は二度と起こらないだろう」。そう思っていましたが、2011年、東日本大震災が発生し、その後も各地で地震や洪水などが断続的に発生する中で、学校はより多くの機能を求められるようになりました。
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東日本大震災発生時、私は都内の大学構内にいました。当日はインカレサークルの集まりで、多くの学生がいました。みんな大学生だったので、それぞれで身を守ることができましたが、もしこれが小さな子どもたちだったら、と思うと、教職員は大変だろうなと思います。
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「津波がきたらどこに避難させるのか」というように、子どもたちの命を守るため、平常時からの備えが求められます。各地で災害が多発する今、学校や教職員の責任はさらに大きくなり、期待されることも増えています。
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私は自宅にいましたが、学校で被災した友人もいました。当時は耐震工事も十分に進んでおらず、壁にヒビが入ったり、一部の大学施設が使えなくなったりしたようです。
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学校施設の耐震化は重要ですよね。大学ではブランケットを借りられたり、プロジェクターで最新の災害情報がわかるようにしてくれていたりして、夜も安心して過ごせました。大学ってこんなに色々備えていたんだ、と驚きましたし、嬉しかったです。
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阪神・淡路大震災の教訓からでしょうね。当時は本当に物資がなくて、大変な状態でした。東日本大震災以降も各地で地震が続いています。校舎の耐震化を進めると同時に、いざという時に学校はどうあるべきか、地域の人々を交え、考えていかねばなりません。
教職員の多忙化と少人数学級の実現について
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メディアで「教職員の多忙化」の問題が頻繁に報じられています。多忙化によって、教育にどんな影響が出ているのでしょうか。
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教員時代の担当科目は理科でした。理科といえば実験が面白いですよね。 しかし、実験をするためには、「期待通りの結果となるためにはどうすればよいか」「安全面で問題はないか」など、必ず事前準備や検証の時間が必要です。ただ、多忙な中ではそれもままならないことから、実験の回数を減らすことになってしまう。結局、影響を受けるのは、子どもたちです。
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一昨年、教育実習に行った学校で、「会議が非常に多く、授業準備ができない」という声を多く聞きました。私も理科の担当だったのですが、「この空き時間にやらないと間に合わない」と走り回って授業準備をしたことが印象に残っています。多忙な中でも、授業の質を落とさない先生たちのすごさを目の当たりにした実習期間でした。
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ひとり親世帯や外国人労働者の増加など、家庭環境が複雑化し、彼らの本当の姿や悩みがわかりにくくなっています。海外では、保護者も含め、ソーシャルワーカーによるケアがなされています。日本でも「スクールソーシャルワーカー」の配置が始まりましたが、まだ不十分で、現状では教員がそうしたケアも担っています。
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言語や文化、発達段階によって一人ひとり違う子どもたちの心に向き合いながら、ソーシャルワーカーの役割も担わなければならない。その上、毎日の授業準備もしているなんて、先生たちのストレスは相当なものではないでしょうか。
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教職員の精神疾患による病気休職者数は、07年度以降、5000人前後で高止まりしています。しかし、専門的ケアができる医療機関はわずかしかなく、教職員の心のケアは放置された状況です。
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学校現場というのは、新人もベテラン教員も、同じ仕事をこなさなければならない、ある意味、特殊な労働環境だと思います。
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新任で受け持ったのは1学級28人程度のいわゆる「少人数学級」でした。しかし、様々な問題を抱えた子どもが多く、経験の浅い私には、十分に対応することができませんでした。今は子どもの状況も家庭環境もより多様化していて、教職員はもっと大変だと思います。全学年で少人数学級を実現し、それに応じて教職員定数を改善する。そうすることで、多忙化の解消や、子どもたち一人ひとりに目が行き届く、きめ細やかな教育環境の実現に繋がると考えています。
座談会を終えて・・・
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お話しがわかりやすく、政治を身近に感じることができました。「あなたの一票が未来に繋がる」と言われても、あまり実感が持てずにいました。水岡さんは知識の少ない私の質問にも、ていねいに答えてくださり、新たな気づきがたくさんありました。今日をきっかけに、政治に注目していきたいと思います。
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教員時代の経験を政治に反映させようとの強い思いを感じました。 水岡さん自身が教員時代に得た知識や、「これは変えなければ」と感じたことを政治に反映させたいとの思いに共感しました。教職をめざす自分にとって、こうした政治家の方がいるとわかって嬉しかったです。